iso tank - プログラムな?話 2009年 06月

百姓vsプログラマ

以前、ウチのさなえさんについて書いた。つまり今回もさなえさんについての話題なのである。

「また田植機かよ」「また自分ん家自慢かよ」と思ったそこのあなた。甘い。今回はそれに「ユーザーインターフェース」についての話も加える。 つまりあなたの予感はおおむね66.6%程度当たっている。おめでとう。

ところで全然関係ないけど東風谷さん家の早苗さん、自機化したね。おめでとう。

さて本題。「さなえさんと僕ん家の風景」でも書いたが、さなえさんは色々と素晴らしい。 しかし僕の能力が低く、そのすばらしさをちゃんと説明できてなかったように思うので改めて書くとこうだ。

  • 従来の田植え機は旋回半径が大きいためUターンができなかったが、さなえさんは旋回半径が小さく一発でUターンできる(むしろ旋回半径が小さすぎてたまに曲がりすぎる)
  • しろかき機(さなえZロータ)がついていて、田んぼを平らにならしながら田植えができる上に雑草取りもできる
  • オプションの自動農薬散布機(「らくまきちゃん」「こまきちゃん」「滴下マン」があるが、我が家ではらくまきちゃんを採用)で、自動的に農薬を苗にまきながら田植えできる
  • 田植え中にさなえさんを止める(エンジンを切るのでなく)と、自動的に田植えも止まる
  • さなえさんをバックさせると自動的に田植えが止まり、田植え装置を持ち上げてバックできる状態にする
  • さなえさんをUターンさせると、自動的にちょうどいい位置から田植えがはじまる。
    同時に、マーカー(次にどのあたりに植えればいいかの目印)を引いてくれる

つまるところ徹底的な自動化なのだ(最初の一行以外)。

この自動化がなにをもたらしたか。従来では、例えば「Uターン」という行動ひとつを取っても 「田植え機を停止し、田植えボタンを切って、装置を上げて、ギアをバックに入れ、50センチほど後退してから、90度ターンを二回。ちょうどいい位置に田植え装置を合わせて一度田植機を止め、装置を下ろし、田植えボタンを入れ、前進」 という作業が、 「田植え機を停止し、ギアをバックに入れて、50センチほど後退してからUターン。あとはまっすぐ」。 人間が作業する部分がこれだけになった。

すさまじいまでの簡便化だ。

するとどうか。田植え機に乗る百姓は「本来の田植え作業」そのものに集中できるようになった!  苗や肥料や農薬が切れたら補充するのは今までどおりだが、苗の様子を観察したりできるし、機械操作のミス(田植えボタンを押し忘れちゃったよ! とか)で植え直しすることもほとんど無くなったのだ。

百姓は黙々と田に苗を植え付けていればいい。あとは田植え歌でも歌うか? といったところだが残念ながらうちの地域にはそれっぽいものは伝えられていない。 エンジン音が大きいのでちょっと大声出しても気づかれないとは思うんだけど。

これは、いわゆる「インターフェース」にまつわる問題だと思うんだ(まぁ後のほうはちょっと蛇足だったけど)。

ある作業をおこないたい人が、その目的の作業以外の作業に煩わされることなく、黙々とその作業をおこなうことができる。これは素晴らしいことだと思う。 僕の大好きなジョエル・オン・ソフトウェア開発抽象化レイヤ という記事でも言及されているが、ここの言葉を借りれば、「百姓たちは、田植え機のターンと、苗や田んぼの状態と、苗や肥料や農薬の残量と、田植え歌の選曲以外の田植えに関わる雑事から切り離されている (プログラマたちは、スピードと方角とランチに何を食べるか以外のヨットに関わる雑事からは切り離されている)」。

実際、ひたすら田植えに集中できるようになったおかげで田植えがものすごく簡単に、かつ短い期間で終わるようになった。これはとても良い製品だ。

しかるに、プログラマひいてはメーカーに求められているソフトウェア製品はおそらくこういうものであろうし、それを作る作業者(つまりプログラマ)自身もそういう環境に乗っていなければ、そういう製品を作ることは難しいと思う。

百姓もそうなのだが、一見最底辺のように思える「作業者」が、最も根幹の「ものづくり」に携わっている。 もちろん、脱穀したコメをきれいに包装し販売戦略を練りもっともらしい宣伝文句をつけて販売し利益を上げるのも、マスターアップされたプログラムを製品化し販売戦略を練りもっともらしい宣伝文句をつけて販売し利益を上げるのも、作業者以外の誰かだ。 そしてそれらの作業がなければコメもソフトウェアも売れないのはわかっている。だが百姓が田植えしなければ、プログラマがコーディングしなければ、すべてがはじまらないのだ。 そして作業者である彼らの環境の改善が生産性の向上に結びつくことを僕はかなり直接的に体験した。

そして僕はジョエルさなえさん井関農機のファンになり、口を開く毎に我が家の自慢の田植え機とジョエルの話をこうやってまるで我が事のように喋くるだろう。

僕は彼らのマーケティングにまんまとはまったのだ。おめでとう。